回天 第10章 エピローグ

人間魚雷回天

母上の泣き声が聞こえて

遺書

 帰省の友人に頼んで送る。何も言う事は無い。只来るべき秋を、静かに待っています。

 日本中が軍神で埋もれねば、勝てぬ戦です。

 東京も再三空襲された様子、別に心配もしません。

 体に気を付けて下さい。便りは致しませんが、心配なさらんで下さい。昔の私ではありません。

遺書

 御両親の幸福の条件の中から、太郎を早く除いて下さい。話さねば、会わねば分からぬ心ではない筈、何時の日か、喜ばしい決定的便りをお届けします。

 正直な処、チョット幼い頃が懐かしい気がします。帰りの車中はお陰で愉快でしたが、母上の泣き声が聞こえて嫌でした。もっと愉快になって、勝利の日まで頑張って下さい。

 悠策や、日出子、五百子は、きっと親孝行をする良い子になりますね。

 ママ、パパ私のする事を信じて見ていて下さい。

 

烈士 塚本 太郎 (茨城県出身21歳)
金剛隊 伊号第48潜水艦 大尉
昭和20年1月21日ウルシー海域にて突入 戦死

・・・では元気で行きます。

・・・では元気で行きます

父上様

母上様

 御元気にて御過ごしの御事と拝察申上げます。

 軍人の一生之皆死の修養にて殊更に言遺す事もありません。

 今回全国予科練習生より選ばれ絶好の機会を得、敵撃滅に特攻精神を発揮し突撃するの機会を得た事は男子の本懐之に過ぐたる事はありません。

 今日此の栄誉を得た事は今迄の父上母上の御陰と矢代家御祖先の御陰と厚く御礼申上げます。

 父上母上の常々申されたる死場所を得た事は、母上父上の御期待に副いましたる事、只々自分の本懐といたす所であります。

 父上母上には何一つ孝行も出来なかった事は、私の最も残念と存ずる次第でありまするが、君に忠を責す事即親に孝なりと信じ、清は特攻隊の一員として神州不滅を信じ、悠久の大義に生きます。

 父上母上も末長く御健康に御注意せられ御過ごし下さい。

慰霊碑

 

 自分も父上母上の御期待に副い敵巨艦に体当たり突撃を致します。長い間色々有難う御座居ました。

 兄上、姉上、久子、スミ子、幸雄、日出子、雅美にも清は立派に散ったと御伝へ下さい。

 只々今迄の不孝を御許し下さい。では元気で行きます。

期必勝爆砕

父上様

母上様

清 書

烈士 矢代 清 (東京都出身19歳)
多々良隊 伊号第56潜水艦 少尉
昭和20年4月14日沖縄近海にて 戦死

回天のこころ、隊員たちの思いを引き継ぎ「平和」を未来に・・。

 

森繁久彌

浮きつ島鼓海を訪ふ  天を回せよ

今は鳴呼  鼓海の波は静かなり

その勲しの  あとや 哀し

大津島に鎮もれる  魂々よ

静かに思ふ  人生に無駄なものが

あらふか  眠れ友よ いかにも

碧き 海に

平成五年五月二十二日  森繁久彌 作


平和の鐘


遺影森繁久彌